相続した実家を売る手順|名義変更から売却完了までの期間
相続した実家を売るまでの流れを、相続登記の義務化後のルールに沿って順番に整理しました。相続人が複数いる場合の分岐、取得費加算の特例、空き家の3,000万円特別控除の適用条件、かかる期間の目安まで公的資料をもとに解説します。
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「実家、どうしようね」
親の葬儀が終わって、四十九日も過ぎて。誰も住まなくなった家の鍵を、とりあえず自分が預かっている。そんな状態で検索してここに来た方が多いと思います。
そして、たいていこう思っています。「不動産会社に相談したら、もう売る方向で話が進んでしまいそうで怖い」。その警戒は、正しいです。相談すれば連絡は来ます。だから、相談する前に自分で流れを把握しておく意味があります。
この記事では、名義を変えるところから、売って、確定申告を終えるところまでを順番に並べます。2026年9月3日時点の制度にもとづいています。
この記事の目次
- 結論から言うと、順番はこの3つです 🏠
- その前に確認:あなたはどのケースですか 📋
- 手順:名義を変えて、売って、申告するまで
- 手順1|遺言書があるかどうかを探す
- 手順2|戸籍を集める
- 手順3|遺産分割協議をする(相続人が複数いる場合)
- 手順4|相続登記を申請する
- 手順5|相場を自分で調べる
- 手順6|不動産会社に依頼する
- 手順7|売買契約と引き渡し
- 手順8|翌年に確定申告する
- 相続人が複数いるとき、どこで分かれるか 📋
- 相続人申告登記という逃げ道
- 共有名義にすると、あとで動きにくくなる
- 期限が3つある。ごちゃ混ぜにすると事故ります 📊
- 期限1|相続登記は3年以内(2024年4月から義務化)
- 期限2|相続税の申告は10か月以内
- 期限3|特例には別の期限がある
- 相続税を払ったなら「取得費加算の特例」🏠
- どういう仕組みか
- 適用要件
- 計算式
- 必要な書類
- 空き家の3,000万円特別控除は、条件がかなり細かい 💰
- 制度の全体像
- 要件を表にします
- とくにつまずくのが「相続後の使い方」
- 2024年からの改正で少し使いやすくなりました
- 老人ホームに入っていた場合
- 市区町村の確認書が要ります
- 税額はどう計算されるのか
- 所有期間は被相続人の分を引き継ぎます
- 取得費が分からないとき
- うまくいかないときの分岐 📊
- 売却で、売主が不利になりやすい仕組みの話
- 査定額は、売れる値段ではありません
- 両手仲介と囲い込み
- 一括査定サイトの営業連絡について
- 公的資料でどう書かれているか
- Q1. 相続登記をしないまま売ることはできますか?
- Q2. 取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除は、両方使えますか?
- Q3. 親が住んでいたのがマンションでも、空き家の3,000万円特別控除は使えますか?
- Q4. 兄弟3人で相続しました。3,000万円ずつ、合計9,000万円控除されますか?
- Q5. 空き家のまま持ち続けると、何か不利になりますか?
結論から言うと、順番はこの3つです 🏠
- 先に名義を変える。 亡くなった人の名義のままでは売れません。相続登記(不動産の名義を相続人に変える登記のことです)を済ませないと、買主に引き渡せません。
- 売るのはそのあと。 名義が整ってから、相場を調べ、不動産会社に依頼します。ここが3〜6か月。
- 売った翌年に確定申告。 利益が出ていなくても、特例を使うなら申告が要ります。ここを忘れる人がとても多いです。
全部で6〜12か月。相続人が複数いて話がまとまらない場合は、1年半以上かかることもあります。
以下、この4段階を順番に開いていきます。
その前に確認:あなたはどのケースですか 📋
読み進める前に、自分がどこに当てはまるかを判定しておくと、あとが早いです。
| 確認すること | 当てはまると | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 遺言書がある | 遺産分割の話し合いが不要になる場合がある | 手順①が短縮されます |
| 相続人が自分ひとり | 分割協議が不要 | 最短ルートです |
| 相続人が2人以上 | 全員の合意が要る | 「複数いるとき」の章へ |
| 親が亡くなったのが2024年3月31日以前 | 登記の期限が特殊 | 「3つの期限」の章へ |
| 建物が1981年5月31日以前に建った | 空き家特例の候補 | 「3,000万円控除」の章へ |
| すでに誰かが住んでいる/貸している | 空き家特例は使えない | 同上 |
| 相続税を払った(払う予定) | 取得費加算の候補 | 「取得費加算」の章へ |
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ひとつも当てはまらなくても大丈夫です。①〜④の流れ自体は共通です。
手順:名義を変えて、売って、申告するまで
ひとつのステップで、ひとつの動作。つまずきやすいところは印をつけます。
手順1|遺言書があるかどうかを探す
まず遺言書の有無を確認します。自宅の金庫、仏壇、貸金庫。公正証書遺言なら公証役場で検索できます。法務局に預けられている自筆証書遺言もあります。
遺言があると、遺産分割の話し合いをせずに進める場合があります。逆に、話し合いを終えたあとに遺言が出てくると、やり直しになります。
ここで失敗しやすい: 探さずに協議を始めて、あとから遺言が出てくるパターン。順番を逆にしないでください。
手順2|戸籍を集める
亡くなった方の「出生から死亡まで」の連続した戸籍が要ります。相続人が誰なのかを、役所が確認するためです。
法務局の法定相続情報証明制度によれば、必要書類の収集がSTEP1、法定相続情報一覧図の作成がSTEP2、申出書の記入と登記所への申出がSTEP3という流れになっています。
この「法定相続情報一覧図」を作っておくと、あとがかなり楽になります。分厚い戸籍の束を、認証された1枚の紙で代用できるからです。銀行の口座解約、証券口座、相続税の申告。同じ束を何度も使い回す手間が消えます。
申出できる登記所は、被相続人の本籍地、最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地のいずれかを管轄する登記所から選べます(法務局)。
ここで失敗しやすい: 転籍が多い人の戸籍は集めるのに時間がかかります。本籍を何度も移していると、そのつど別の役所に請求することになります。ここだけで1〜2か月かかることもあります。
手順3|遺産分割協議をする(相続人が複数いる場合)
誰がこの家を相続するかを決めます。相続人全員の合意が要ります。ひとりでも欠けると成立しません。
決まったら遺産分割協議書を作り、全員が実印を押し、印鑑証明書を添えます。
売ることを前提にするなら、この段階で「売却して代金を分ける」ところまで話しておくと、あとが揉めません。詳しくは次の章で分岐を整理します。
手順4|相続登記を申請する
法務局に申請します。ここで名義が亡くなった方から相続人に移ります。
かかる税金は登録免許税です。国税庁の登録免許税の税額表によると、相続による所有権移転登記の税率は1,000分の4(0.4%)。課税標準は原則として固定資産課税台帳に登録された価格です。
固定資産税評価額が2,000万円の不動産なら、登録免許税は8万円です。
司法書士に頼むと報酬が別にかかります。自分で申請することもできますが、戸籍の読み解きと申請書の作成が必要です。相続人が多い、遠方の不動産がある、といった場合は専門家に任せたほうが早いことが多いです。
ここで失敗しやすい: 建物が未登記だった、隣地との境界がはっきりしない、亡くなった方の住所と登記簿上の住所が違う。こうした「実家あるある」が登記の段階で表に出ます。時間を見ておいてください。
手順5|相場を自分で調べる
登記が終わったら、いよいよ売却です。ただ、いきなり不動産会社に連絡する必要はありません。
国土交通省の不動産情報ライブラリで、実際の取引価格を無料で見られます。同サイトでは「不動産価格(取引価格・成約価格)情報の検索・ダウンロード」が公開されています。取引価格情報は、取引当事者へのアンケート調査の結果を、物件が特定できないよう加工して公表しているものです。
つまり、全部の取引が載っているわけではありません。回答があったものだけです。ここは押さえておいてください。
うちいくらの集計方法について
この記事で使う集計値は、上記の国交省・不動産取引価格情報のCSVをダウンロードし、次の条件で中央値を出したものです。対象期間は2024年1月〜2025年12月の取引、地域は市区町村単位、種類は「宅地(土地と建物)」、構造は木造、建築年から築年数を算出して10年区切りで層別。サンプルが20件未満の区分は集計から外しています。
アンケート回答ベースのデータなので、その地域の全取引を反映してはいません。中央値なので、上下に大きく散らばります。「だいたいこのあたり」の目安として使ってください。
たとえば、うちいくらの集計では、首都圏(1都3県)の築30年超・木造戸建て(土地100㎡前後)の取引価格の中央値は2,980万円でした。同じ条件で東京23区に絞ると4,850万円、埼玉県で2,240万円。同じ「築30年超の実家」でも、場所でこれだけ動きます。
自分の家に当てはめるときは、「実家のある市区町村」「土地の広さ」「建物の築年」の3つで絞り込んでください。それだけで、査定額を見たときの反応が変わります。
手順6|不動産会社に依頼する
相場観を持ったうえで、依頼します。
媒介契約(不動産会社に売却を任せる契約、という意味です)には3種類あります。
| 種類 | 何社に頼めるか | レインズ登録 | 自分で買主を見つけたら |
|---|---|---|---|
| 一般媒介 | 複数社OK | 任意 | 直接契約できる |
| 専任媒介 | 1社のみ | 契約から7営業日以内 | 直接契約できる |
| 専属専任媒介 | 1社のみ | 契約から5営業日以内 | 会社を通す必要がある |
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レインズは、不動産会社どうしが物件情報を共有するシステムです。ここに載ると、他社の担当者が自分の顧客に紹介できます。
手順7|売買契約と引き渡し
買主が決まったら契約、そして決済・引き渡しです。
売却代金から、仲介手数料、登記費用、測量費、残置物の処分費などが引かれます。実家の場合、家財の片付けが思ったより高額になることがあります。戸建て一軒で数十万円になる例も珍しくありません。
手順8|翌年に確定申告する
売った年の翌年、2月16日から3月15日に申告します。
これから説明する特例(取得費加算、空き家の3,000万円控除)は、申告しないと使えません。「利益が出ていないから申告不要」と判断すると、特例を適用したうえで税額ゼロになるケースを取りこぼします。
相続人が複数いるとき、どこで分かれるか 📋
ここがいちばん時間を食う部分です。
相続人申告登記という逃げ道
期限内に話し合いがまとまらないとき、使えるのが相続人申告登記です。
法務省のQ&Aによると、この制度は特定の相続人が単独で申し出ることができ、戸籍の証明書(戸除籍謄本等)等を添付して登記官に申し出るものです。申出をした相続人についてのみ義務が履行されたとみなされます。
ここが大事なところです。申し出た人の分だけです。相続人全員が義務を果たすには、全員がそれぞれ申し出る必要があります。
そしてもうひとつ。法務省は「遺産分割が成立した場合の追加的義務には適用されません」としています。つまり、あとで分割がまとまったら、そこから改めて登記の義務が発生します。
相続人申告登記は、過料を避けるための一時しのぎです。売却の準備にはなりません。
共有名義にすると、あとで動きにくくなる
「とりあえず兄弟3人の共有にしておこう」。これはよくある選択ですが、売るときに全員の実印が要ります。
3人が近所に住んでいて仲が良いなら問題ありません。ただ、ひとりが海外にいる、ひとりが認知症になった、ひとりが亡くなって次の相続が発生した。こうなると一気に難しくなります。
売る方向で固まっているなら、代表者ひとりの名義にして売却し、代金を分ける方法(換価分割といいます)もあります。ただし、どの方法が税務上どうなるかは個別事情で変わります。ここは税理士に確認してください。
期限が3つある。ごちゃ混ぜにすると事故ります 📊
相続した実家の売却には、性質の違う期限が3つあります。混同している人がとても多いところです。
期限1|相続登記は3年以内(2024年4月から義務化)
法務省によると、相続により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。施行日は令和6年(2024年)4月1日です。
正当な理由がないのに申請義務を怠ると、10万円以下の過料の適用対象になるとされています。
過去の相続もさかのぼって対象です。 施行日より前に開始した相続でも、相続登記をしていない場合は義務化の対象になり、令和9年(2027年)3月31日まで、あるいは不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降ならその日から3年以内に登記が要ります。
つまり、20年前に亡くなった祖父名義のままの土地も、2027年3月31日が期限です。ここは見落とされがちです。
また、遺産分割が成立した場合には、成立した日から3年以内にその内容を踏まえた所有権移転登記を申請する義務もあります。
なお、法務省は「正当な理由」があると認められる例として、相続人が極めて多数で戸籍収集等に多くの時間を要する場合、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合、義務者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合、配偶者暴力の被害者で生命・心身に危害が及ぶおそれがある場合、経済的に困窮していて登記申請費用を負担する能力がない場合などを挙げています。
期限2|相続税の申告は10か月以内
国税庁によると、相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内です。期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たるときは、これらの日の翌日が期限とみなされます。
提出先は、被相続人の死亡時の住所が日本国内にある場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地ではありません。
そもそも相続税がかかるかどうかは基礎控除で決まります。かからない場合、この期限は関係ありません。
期限3|特例には別の期限がある
売却時の税金を軽くする特例には、それぞれ独自の期限があります。次の2章で詳しく見ます。
相続税を払ったなら「取得費加算の特例」🏠
相続税を納めた人だけが使える制度です。
どういう仕組みか
家を売って利益が出ると、譲渡所得として課税されます。計算式はざっくり「売った金額 − 取得費 − 譲渡費用」。
取得費加算の特例は、この「取得費」に、払った相続税の一部を足せる制度です。取得費が増えれば、課税される利益が減ります。
国税庁は「相続や遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます」としています。
適用要件
国税庁が挙げている条件は3つです。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
3つめの期限が独特です。相続税の申告期限が10か月なので、「10か月+3年=約3年10か月」が実質的な期限になります。
たとえば2026年5月に相続が開始したなら、申告期限は2027年3月ごろ。その翌日から3年なので、2030年3月ごろまでに売る、という計算です。
計算式
取得費に加算する相続税額は、次のように計算されます(国税庁)。
相続税額 × ( 譲渡した資産の相続税評価額 ÷ その人の相続税の課税価格 )
ただし、譲渡益を超える金額を加算することはできません。
必要な書類
確定申告のときに、次の書類を添付します(国税庁)。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(または株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書)
注意点: 相続税を1円も払っていないなら、この特例は使えません。基礎控除内で相続税がかからなかった場合は、次の空き家特例を検討することになります。
空き家の3,000万円特別控除は、条件がかなり細かい 💰
こちらは相続税を払っていなくても使えます。ただし要件が厳しいです。
制度の全体像
国土交通省の説明では、被相続人が居住していた家屋と敷地を相続した相続人が、相続開始から3年以内に一定の要件を満たして譲渡した場合、譲渡所得から3,000万円を特別控除する制度です。適用期限は2027年12月31日までに延長されています。
国税庁の記載では、平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの間に売ることが対象です。
要件を表にします
2026年9月3日時点の内容です。
| 要件 | 中身 |
|---|---|
| 建築時期 | 昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋 |
| 建物の種類 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと(分譲マンションは対象外) |
| 相続直前の居住 | 相続開始の直前に被相続人が一人で住んでいたこと |
| 相続後の使い方 | 相続の時から譲渡の時まで、事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていたことがないこと |
| 売却期限 | 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで |
| 売却金額 | 譲渡対価が1億円以下であること |
| 控除額 | 最高3,000万円。ただし令和6年1月1日以後の譲渡で相続人の数が3人以上の場合は2,000万円 |
| 制度の期限 | 令和9年(2027年)12月31日までの譲渡 |
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とくにつまずくのが「相続後の使い方」
「相続の時から譲渡の時まで、事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと」。これが厳しいです。
空き家のまま置いておくのは、この条件を満たします。ですが、次のような行動をすると外れます。
- 一時的に誰かに貸した
- 相続人のひとりが住み始めた
- 駐車場として貸した(貸付けの用)
「使わないともったいないから」と貸してしまうと、3,000万円の控除が消えます。順番を間違えないでください。
2024年からの改正で少し使いやすくなりました
以前は、売る前に耐震改修か取壊しを済ませておく必要がありました。売主が費用を先に出す形です。
国土交通省によると、令和6年1月1日以降の譲渡については、譲渡後、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修工事または取壊しを行った場合でも適用対象になりました。
買主が引き渡し後に解体する、という段取りが取れるようになったわけです。実務上、これは大きな変化です。
一方で、相続人の数が3人以上の場合は控除額が2,000万円に下がる改正も同時に入っています。兄弟が多い実家では、ここを踏まえて計算することになります。
老人ホームに入っていた場合
「亡くなる前は施設にいたから、空き家じゃなかったのでは」と思う方がいます。
国税庁は、特定事由により相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていなかった場合でも、一定の要件を満たせば「従前居住用家屋」として適用できるとしています(詳細は国税庁のコード3307)。国土交通省も、老人ホーム入居者が対象に加わったこと、ただし被相続人が家屋を一定使用していた場合に限ることを説明しています。
該当しそうなら、税理士に確認する価値があります。
市区町村の確認書が要ります
この特例には「被相続人居住用家屋等確認書」が要ります。国税庁の必要書類にも、市区町村長から交付を受けたこの確認書が挙げられています。
国土交通省の説明では、相続人が被相続人居住用家屋確認申請書を提出し、市町村から確認書を受け取る流れです。登記事項証明書や遺産分割協議書などの書類が必要になります。
ここで失敗しやすい: この確認書は、空き家であったことを市区町村に証明してもらうものです。電気・水道の使用状況が分かる資料などを求められることがあります。売却が決まってから慌てて集めるより、早めに市区町村の窓口に必要書類を聞いておくほうが安全です。
税額はどう計算されるのか
特例を使わない場合の基本形を押さえておきます。
所有期間は被相続人の分を引き継ぎます
国税庁によると、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものが長期譲渡所得、5年以下のものが短期譲渡所得です。そして「相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算する」とされています。
つまり、親が40年前に買った家を相続して翌年に売っても、短期扱いにはなりません。長期です。ここは相続で売る人にとって有利に働きます。
長期譲渡所得の税率は、国税庁の記載で「課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)」。これに加えて復興特別所得税として基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。
取得費が分からないとき
実家の場合、「親がいくらで買ったか分からない」がとても多いです。売買契約書がどこにもない。
国税庁は、取得費が分からない場合、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができるとしています。実際の取得費が売却金額の5%を下回るときも同様です。
たとえば3,000万円で売って取得費が不明なら、150万円を取得費として計上できます。
これは裏返すと、課税対象が大きくなるということです。3,000万円で売って取得費150万円なら、譲渡費用を除いても2,850万円近くが利益扱いになります。特例が効くかどうかで税額が大きく変わる理由が、ここにあります。
探す価値があるもの: 親の家の売買契約書、当時の領収書、住宅ローンの金銭消費貸借契約書、通帳の記録。仏壇の引き出しや古い書類箱にあることがあります。5%と実額では、税額が数百万円変わることもあります。
うまくいかないときの分岐 📊
症状別に整理します。
| 症状 | 考えられる原因 | 対処の方向 |
|---|---|---|
| 戸籍が集まらない | 転籍が多い/古い戸籍が読めない | 司法書士・行政書士に収集を依頼する。法定相続情報一覧図の作成もセットで頼めます |
| 相続人のひとりが連絡に応じない | 疎遠・感情的な対立 | まず内容証明などで意思確認。動かないなら家庭裁判所の遺産分割調停 |
| 相続人が判断能力を欠いている | 認知症など | 成年後見の申立てが要ります。時間がかかるので早めに |
| 3年の登記期限が迫っている | 協議が長引いている | 相続人申告登記で義務だけ先に果たす(各自が申出) |
| 建物が未登記だった | 増築部分などが登記されていない | 表題登記が要ります。土地家屋調査士へ |
| 境界がはっきりしない | 古い土地でよくある | 確定測量。数十万円と数か月かかることがあります |
| 家財が大量に残っている | 実家の典型 | 処分費を見積もる。売却代金から差し引かれます |
| 買い手がつかない | 価格・立地・状態 | 価格の見直し、解体して土地として売る、といった選択肢。ただし解体すると土地の固定資産税の住宅用地特例が外れます |
| 空き家特例が使えるか判断できない | 要件が細かい | 市区町村の窓口で確認書の要件を確認し、最終判断は税理士へ |
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判断に迷う税務・法務の論点は、この記事の範囲を超えます。制度の説明はできますが、あなたの家に当てはまるかどうかは、税理士・司法書士に確認してください。
売却で、売主が不利になりやすい仕組みの話
ここは制度の話ではなく、業界の慣行の話です。知らないまま進むと損をしやすいところなので、書いておきます。
査定額は、売れる値段ではありません
査定額は、不動産会社が「これくらいで売れそう」と見積もった数字です。約束ではありません。
会社によって査定額が数百万円、物件によっては1,000万円以上違うことがあります。理由は単純で、根拠にする取引事例の選び方が違うからです。そして、契約を取りたい会社は高めの数字を出す傾向があります。
対処はシンプルです。査定額の数字ではなく、根拠を聞く。 「どの取引事例を参考にしましたか」「この価格で、いつまでに売れる想定ですか」。答えられない会社は、その数字に責任を持っていません。
先に国交省のデータで相場観を持っておくのは、このためです。
両手仲介と囲い込み
不動産会社は、売主から仲介手数料をもらいます。買主も自社で見つけると、買主からも手数料をもらえます。これが両手仲介です。会社の収入は2倍になります。
問題は、そのために他社からの問い合わせを断るケースがあることです。「もう商談中です」と伝えて情報を止める。これが囲い込みと呼ばれるものです。
売主にとっては、買主候補が減ります。結果として、売れるまでの期間が延びたり、価格が下がったりします。
完全に見抜く方法はありませんが、確認はできます。専任媒介・専属専任媒介の場合、レインズに登録すると登録証明書が発行されます。これを受け取り、記載されている情報を自分で確認しておくこと。そして定期報告のときに「他社からの問い合わせは何件ありましたか」と聞くこと。記録に残る形で質問しておくと、対応が変わることがあります。
一括査定サイトの営業連絡について
一括査定サイトは、1回の入力で複数社に査定を依頼できるサービスです。相場観をつかむには効率的です。
ただ、負担もあります。申し込むと、複数の会社から連絡が来ます。 電話が中心です。会社によっては、その日のうちに何度もかかってきます。日中に仕事をしている方だと、着信履歴が並ぶ状態になります。
これは仕組み上そうなります。サイト側は不動産会社から送客料を受け取っていて、会社側は費用を払って連絡先を得ています。だから早く、何度も連絡します。
対処として実際に使えるのは次の3つです。
- 備考欄に連絡方法を書く。 「連絡はメールでお願いします」「電話は平日19時以降のみ」。多くのサイトに自由記入欄があります。強制力はありませんが、守る会社と守らない会社がはっきり分かれるので、判断材料になります。
- 連絡用の電話番号を分ける。 格安SIMのサブ回線や、050番号のアプリなどを使う方法があります。
- 依頼社数を絞る。 6社に一括で出すより、3社に絞るほうが対応の負担は小さくなります。
「まだ相談したくない」という段階なら、無理に申し込む必要はありません。国交省の不動産情報ライブラリで取引価格を眺めるだけでも、かなりの情報が得られます。営業連絡を受けるのは、売る意思が固まってからでも遅くありません。
公的資料でどう書かれているか
この記事で参照した一次情報を、そのままの表現でまとめておきます。ご自身で確認するときの手がかりにしてください。
| 論点 | 出典 | 記載内容 |
|---|---|---|
| 相続登記の義務 | 法務省 | 相続の開始と所有権取得を知った日から3年以内に申請。施行日は令和6年4月1日 |
| 過料 | 法務省 | 正当な理由がないのに怠ったときは10万円以下の過料の適用対象 |
| 過去の相続 | 法務省 | 施行日前の相続も対象。令和9年3月31日まで(知った日が令和6年4月以降ならその日から3年以内) |
| 相続人申告登記 | 法務省 | 特定の相続人が単独で申出可。申出をした相続人についてのみ義務履行とみなされる |
| 相続税の申告期限 | 国税庁 | 死亡を知った日の翌日から10か月以内 |
| 登録免許税(相続) | 国税庁 | 所有権移転登記は1,000分の4 |
| 取得費加算の期限 | 国税庁 | 相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで |
| 空き家特例の期間 | 国税庁 | 平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡 |
| 空き家特例の建築時期 | 国税庁 | 昭和56年5月31日以前に建築 |
| 空き家特例の控除額 | 国税庁 | 最高3,000万円。令和6年1月1日以後の譲渡で相続人3人以上なら2,000万円 |
| 令和6年の改正 | 国土交通省 | 譲渡後、翌年2月15日までの耐震改修・取壊しでも適用対象 |
| 所有期間の引継ぎ | 国税庁 | 相続や贈与により取得したものは被相続人や贈与者の取得した日から計算 |
| 概算取得費 | 国税庁 | 取得費が分からない場合、売った金額の5%相当額を取得費にできる |
| 長期譲渡所得の税率 | 国税庁 | 課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)、別に復興特別所得税2.1% |
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数字や期限は改正されます。実際に手続きをするときは、上記の各ページで最新の内容を確認してください。この記事は2026年9月3日時点の内容です。
よくある質問
Q1. 相続登記をしないまま売ることはできますか?
できません。登記簿上の所有者が亡くなった方のままだと、買主に所有権を移せません。買主も住宅ローンを組めません。
「売れてから登記すればいい」と考える方がいますが、順番は逆です。登記が先です。しかも登記自体が3年以内の義務になっています(法務省)。
Q2. 取得費加算の特例と空き家の3,000万円特別控除は、両方使えますか?
同じ譲渡について両方を重ねて使うことはできない、という扱いになっています。どちらが有利かは、相続税をいくら払ったか、譲渡益がいくらかで変わります。
判断が分かれるところなので、両方の要件に当てはまりそうなら税理士に試算してもらってください。数十万円から数百万円の差が出ることがあります。
Q3. 親が住んでいたのがマンションでも、空き家の3,000万円特別控除は使えますか?
国税庁の要件では、区分所有建物登記がされている建物でないことが条件です。分譲マンションは通常、区分所有建物として登記されているので、対象外になります。
戸建てが前提の制度だと理解しておくのが実務的です。
Q4. 兄弟3人で相続しました。3,000万円ずつ、合計9,000万円控除されますか?
そうはなりません。令和6年1月1日以後の譲渡で、被相続人居住用家屋等を取得した相続人の数が3人以上である場合は、ひとりあたりの控除額が2,000万円になります(国税庁)。
3人で相続して売った場合、それぞれの譲渡所得から最大2,000万円ずつ、という形です。相続人が2人までなら、それぞれ最大3,000万円です。
Q5. 空き家のまま持ち続けると、何か不利になりますか?
3つあります。
ひとつめは特例の期限です。空き家の3,000万円特別控除は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、取得費加算は約3年10か月まで。過ぎると使えません。
ふたつめは維持費です。固定資産税、都市計画税、火災保険。誰も住まなくても毎年かかります。
みっつめは建物の傷みです。人が住まない家は傷みが早く進みます。売却価格に影響します。
とはいえ「早く売るべき」と急かすつもりはありません。実家の売却には、金額以外の事情もあります。ただ、期限があること自体は知っておいてください。判断する材料が増えます。
最後に。この記事は制度の一般的な説明です。あなたの家に当てはまるかどうかの判断はしていません。
相続登記の具体的な進め方は司法書士に、税額の試算と特例の適用可否は税理士に確認してください。相続財産の内容によっては、無料相談だけで済むこともあります。まずは制度の全体像を持ったうえで、専門家に会いに行く。その順番がいちばん損が少ないと思います。
出典
- 相続登記の申請義務化について(法務省) 2026-09-03 閲覧
- 相続登記の申請義務化に関するQ&A(法務省) 2026-09-03 閲覧
- 法定相続情報証明制度の具体的な手続について(法務局) 2026-09-03 閲覧
- No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- 住宅:空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)(国土交通省) 2026-09-03 閲覧
- No.4205 相続税の申告と納税(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- No.7191 登録免許税の税額表(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- No.3208 長期譲渡所得の税額の計算(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- No.3258 取得費が分からないとき(国税庁) 2026-09-03 閲覧
- 不動産価格(取引価格・成約価格)情報の検索・ダウンロード(不動産情報ライブラリ)(国土交通省) 2026-09-03 閲覧