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不動産の査定額が会社によって違う理由|1000万円差の中身

不動産会社の査定額が1,000万円単位で食い違うのはなぜか。取引事例比較法・原価法・収益還元法の違い、国交省が推奨する価格査定マニュアルの計算式、そして媒介契約を取るために高く出るケースを、公的資料をもとに分解して説明します。

不動産の査定額が会社によって違う理由|1000万円差の中身

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「3社に査定を頼んだら、いちばん高い会社といちばん安い会社で1,000万円も違った。どっちが本当なんだろう」

売却を考え始めた人から、いちばんよく出てくる疑問です。そして、この疑問にきちんと答えている記事は意外と少ない。「会社によって得意分野が違うからです」で終わってしまう。

それでは判断できませんよね。ここでは、査定額がどう組み立てられているかを数式のレベルまで開けて、差がどこから生まれるのかを分けて説明します。


この記事の目次
  1. 結論から言うと 📊
  2. まず前提:あなたの物件はどの手法で査定される? 🏠
  3. 3つの手法は何が違うのか 💰
  4. 差はどこで生まれるのか:査定の計算式を開ける 📋
  5. 裁量ポイント1:どの事例を選ぶか
  6. 裁量ポイント2:評点
  7. 裁量ポイント3:流通性比率 ← ここが一番大きい
  8. 実際にいくら差がつくのか、計算してみます 📊
  9. 戸建はもっと動きます
  10. ここからが本題:営業のために高く出るケース 🏠
  11. 囲い込みについて
  12. 高い査定額の中身を確かめる手順 📋
  13. ステップ1:査定を頼む前に、自分で相場を見る
  14. ステップ2:机上査定(簡易査定)を複数社に出す
  15. ステップ3:査定額と一緒に「根拠の書面」を求める
  16. ステップ4:書面の中身を4点だけ確認する
  17. ステップ5:同じ質問を全社に投げて、答え方を比べる
  18. うまくいかないときの分岐 📊
  19. 一次情報:成約価格と売出価格は、これだけ違う 🗾
  20. 首都圏の中古マンション(2026年7月度)
  21. 首都圏の中古戸建住宅(2026年7月度)
  22. 一括査定の営業連絡について 📋
  23. まとめ:金額ではなく、金額の作り方を比べる

結論から言うと 📊

3行でまとめます。

  1. 査定額の差の大半は「計算の途中にある3つの裁量ポイント」から生まれます。 どの取引事例を選ぶか、評点を何点つけるか、最後に掛ける「流通性比率」を何%にするか。この3つだけで、公的なマニュアルの範囲内でも査定額は3割近く動きます。
  2. そのうえで、媒介契約(不動産会社に売却を任せる契約のこと)を取るために意図的に高く出すケースが、別のレイヤーとして存在します。 これは計算の問題ではなく営業の問題です。
  3. 見分ける方法は一つだけ。金額ではなく、根拠の書面を比べることです。 宅地建物取引業法は、価額の意見を述べるときに根拠を明らかにするよう不動産会社に義務づけています。根拠を出せない高値は、根拠のない高値です。

査定額は売却価格ではありません。査定額は「この価格なら3か月程度で買い手が付きそう」という不動産会社の見立てであって、その金額で売れることを約束するものではありません。これは不動産流通推進センターの消費者向け資料にもはっきり書かれています。


まず前提:あなたの物件はどの手法で査定される? 🏠

査定手法の話に入る前に、自分がどのケースに当てはまるかを確認してください。物件の種類によって、使われる計算方法がそもそも違います。

あなたの物件 主に使われる査定手法

中古マンション 居住用のファミリータイプ 取引事例比較法(事例比較方式) 似た成約事例と条件を比べて単価を出す

中古戸建・土地 土地と建物を分けて査定する 土地=事例比較/建物=原価法 建て直したらいくらか、から減らしていく

賃貸中・投資用 ワンルーム、一棟もの、貸家など 収益還元法が加わる 家賃収入から逆算する。上の2つとは別軸

不動産鑑定評価基準では、価格を求める手法を「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の3つに大別しています。3つとも国土交通省が定めた基準に書かれている、れっきとした手法です。

そして、不動産会社が実務で使う「価格査定マニュアル」(公益財団法人 不動産流通推進センターが作成し、国土交通省が利用を推奨しているもの)では、戸建住宅は原価方式、マンションと住宅地は事例比較方式を採用しています。

ここが大事なポイントです。マンションの査定と戸建の査定は、そもそも計算の作り方が違う。 だから「マンションの査定は各社そろったのに、実家の戸建は各社バラバラだった」ということが起きます。

なお、価格査定マニュアルには対象外の物件もあります。新築住宅、豪邸や由緒ある旧家、定期借地権マンション、収益ビジネスタイプのワンルームなどは対象外とされています。当てはまる場合は、各社が独自の方法で査定していることになるので、根拠の確認がさらに重要になります。


3つの手法は何が違うのか 💰

言葉の意味を先に整理します。専門用語のまま読み進めても、差の理由にはたどり着けません。

手法 何を見ている? ひとことで言うと 出てくる価格の呼び方
取引事例比較法 近所の似た物件がいくらで売れたか 「隣が5,000万円で売れたなら、うちは…」 比準価格
原価法 今この建物を建て直すといくらか 「新築なら2,200万円。築25年だから…」 積算価格
収益還元法 貸したら年いくら入るか 「年200万円の家賃なら、利回り5%で4,000万円」 収益価格

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不動産鑑定評価基準の言葉を借りると、原価法は「価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法」。取引事例比較法は「多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量」する手法です。

収益還元法は「対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求める」手法。基準には「自用の住宅地といえども賃貸を想定することにより適用されるものである」とも書かれていますが、実務で自宅の売却査定に収益還元法が主役になることはあまりありません。

注意しておきたいのは、査定と鑑定評価は別物だということです。 不動産鑑定評価は不動産鑑定士が有料で行うもの。不動産会社の価格査定は仲介業務の一環として通常無料で行われるもので、両者は違います。実際、宅建業法の解釈・運用の考え方では、根拠を書面で示すときは「鑑定評価書でないことを明記する」ことが求められています。


差はどこで生まれるのか:査定の計算式を開ける 📋

ここからが本題です。マンションの査定額がどう組み立てられるか、価格査定マニュアルの計算式を見てみます。

マンション査定の計算式(価格査定マニュアルの考え方)

事例の単価 どの成約事例を選ぶか ×

評点の比 査定物件 ÷ 事例物件 ×

専有面積 動かない ×

流通性比率 マンションは ±7% の幅

査定価格

オレンジ枠の3か所が、査定者の判断で動く場所 どれも小さな判断。しかし掛け算なので、積み重なると数百万〜1,000万円の差になる

不動産流通推進センターの消費者向け資料には、こんな計算例が載っています。専有面積70㎡のマンションで、事例マンションの単価が30万円/㎡、事例の評点が105点、査定マンションの評点が110点の場合。

30万円/㎡ ×(110点 ÷ 105点)× 70㎡ × 1.00(流通性比率)≒ 2,200万円

シンプルですよね。でも、このシンプルさが差を生みます。

裁量ポイント1:どの事例を選ぶか

査定の起点は「事例の単価」です。ここが変われば、あとは全部連動します。

不動産鑑定評価基準は、取引事例について「近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択する」と定め、さらに「取引事情が正常なものと認められるもの又は正常なものに補正することができるもの」であることを求めています。売り急ぎや買い進みといった特殊な事情が価格に影響しているときは、適切に補正しなければならない、とも書かれています。

価格査定マニュアルの手引きでは、事例地の選び方として「成約日が査定時点から半年以内」「査定地と同品等・同規模」「同一圏内(最寄駅からの徒歩圏やバス圏が同じ等)」「同じ都市計画区域」といった条件が挙げられています。

ここで何が起きるか。同じマンションの中でも、住戸によって成約単価は違います。 高層階の角部屋が売れた事例を採るのか、低層階の北向きが売れた事例を採るのか。それだけで起点が1割変わることは珍しくありません。しかもどちらを選んでも、ルール違反ではないのです。

裁量ポイント2:評点

価格査定マニュアルでは、100点を基準として項目ごとに評点を加減します。マンションなら「交通の便」「立地条件」「住戸位置(所在階・方位・日照通風)」「専有部分(仕様・維持管理状況・眺望景観)」「敷地」「共用部分」「設備・施設」「維持管理」の8分類。

消費者向け資料に載っている評点の例を見ると、幅の大きさがわかります。

項目 評点の幅(例)
所在階(マンション) 3階を標準に、おおむね −5点〜+25点
室内の維持管理状況 −15点〜+15点
耐震性 −4点〜+4点
交通の便(駅からの徒歩分数・土地) おおむね −18点〜+18点
日照・採光(土地) −20点〜+10点
道路幅員(土地) −15点〜+10点

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推進センターの資料には、こう書かれています。評価の仕方には「駅からの徒歩分数といった客観的なもの」と「外観や眺望の良否といった主観的なもの」がある、と。

主観的な項目がある、と公的な資料が認めている。 「眺望がやや優れる」と見るか「普通」と見るかで、数点動く。数点動けば数%動く。5,000万円の物件なら、数点で100万円単位の話になります。

裁量ポイント3:流通性比率 ← ここが一番大きい

そして最後に掛かるのが「流通性比率」。これは「その物件が売りやすいか、売りにくいか、という流通性の度合いを示す比率」です。

推進センターの資料によると、この比率の可動域は次のとおりです。

物件 流通性比率の範囲
戸建住宅(土地+建物) 1.00 を基準に −15%〜+10%
土地のみ・中古マンション 1.00 を基準に −7%〜+7%

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戸建の場合、下限と上限で25ポイントの開きがあります。査定の一番最後に、25ポイント分の調整ノブがついている。 これがマニュアルの範囲内で認められた幅です。

WEBシステムの手引きを見ると、流通性比率は「価格」「物件の需給状況」「地域の特性」「日照・通風」「間取りや仕様」「その他」の6項目をプルダウンで選んで算出する仕組みになっています。手引きのサンプル画面では、それぞれ1.02、1.02、0.99、1.03、0.98、1.00で合計1.04と表示されていました。


実際にいくら差がつくのか、計算してみます 📊

ここまでの3つの裁量ポイントを使って、うちいくら編集部で試算しました。 集計方法を先に書きます。価格査定マニュアルの計算式(事例単価 × 評点の比 × 面積 × 流通性比率)に、A社とB社それぞれ「無理のない範囲の値」を入れて比べたものです。特殊な操作は一切していません。前提は専有面積70㎡の中古マンション、2026-08-31時点。

判断ポイント A社 B社 B社はA社の何倍
参考にした事例の単価 82万円/㎡ 88万円/㎡ 1.073倍
評点の比(査定÷事例) 100 ÷ 105 = 0.952 108 ÷ 105 = 1.029 1.080倍
流通性比率 0.95 1.05 1.105倍
査定価格(70㎡) 約5,190万円 約6,650万円 1.28倍

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差額、約1,460万円。

どちらの会社も、突飛なことはしていません。事例の単価は7%違うだけ。評点は8点違うだけ。流通性比率はどちらもマンションの許容範囲(±7%)の中に収まっています。それでも1.28倍になる。掛け算だからです。

そして、A社もB社も「価格査定マニュアルに基づいて査定しました」と説明できてしまいます。

戸建はもっと動きます

戸建の建物部分は原価法で計算します。手引きによると、建物の現価率(新築時に対する現在の価値の割合)はこう定義されています。

現価率 = 1 −(経過年数 ÷ 耐用年数)

そして耐用年数は、基礎・躯体のグレード判定で決まります。

ランク 判定の目安 耐用年数
AAA 長期優良住宅相当(維持保全計画に基づく定期点検・補修の実施が確認できるもの) 100年
AA 劣化対策等級3相当 75年
A 劣化対策等級2相当 50年
B 昭和60年以降に旧公庫融資を受けている 40年
C 上記以外 30年

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同じ築25年の木造住宅でも、Cランク(耐用30年)なら残りは約17%、Aランク(耐用50年)なら50%。 3倍近い開きです。

そして、このランクを分けるのは何か。手引きには「住宅性能評価書等により判定します」と書かれています。つまり、書類があるかどうか。 家の作りが同じでも、書類が見つからなければ低いランクで判定されうる、ということです。

実家の押入れや、購入時にもらった分厚いファイルを開けてみてください。設計図書、検査済証、住宅性能評価書、長期優良住宅認定通知書、フラット35適合証明書、建物状況調査結果報告書、白アリ検査の保証書。手引きには、これらが「付加価値項目」として加点対象になることも明記されています。

さらに、リフォーム履歴も効きます。手引きのグラフでは、普及品を使った木造戸建で築15年目に外部建具・内部建具・内装仕上げを全面リフォームした場合、建物の現価率が37.5%から53.2%へ、15.7ポイント上がる例が示されています。築25年時点でも、リフォームなしのケースより12.4ポイント高く評価される計算です。

ここで失敗しやすいポイント。 「訪問査定の前に片付けなきゃ」と部屋の掃除ばかり気にする人が多いのですが、書類のほうが金額へのインパクトは大きい可能性があります。掃除も無意味ではありません(「目視による物件の現況評価」という補正項目があり、汚れ具合で1.05〜0.90の補正がかかります)。ただ、優先順位としては書類が先です。


ここからが本題:営業のために高く出るケース 🏠

ここまでは「計算の中の話」でした。ここからは別のレイヤーの話です。

査定額が高く出る理由には、計算上の理由と営業上の理由の2種類があります。この2つを混ぜて考えると、絶望的に判断できなくなります。

高い査定額には2種類ある

根拠が説明できる高値 ・どの成約事例を使ったか言える ・評点が高い理由を項目で示せる ・流通性比率を上げた理由を言える ・書面で受け取れる ・売れなかった場合の話も先にする 検証できる

営業のための高値 ・金額が先に出て、根拠は口頭だけ ・事例の中身を聞くとあいまいになる ・「うちなら売れます」で押してくる ・契約後しばらくして値下げの話が出る ・書面を求めると渋られる 検証できない

なぜ高く出す動機が生まれるのか。仕組みの話をします。

不動産会社の売却仲介の収入は、成約したときの仲介手数料です。成約しなければゼロ。ということは、まず媒介契約を取らないと、その会社にはビジネスが始まりません。 売主は普通、複数社に査定を頼んで、そのなかから1社を選びます。このとき、金額がいちばん目に入る指標になる。

つまり構造として、「高い査定額を出したほうが媒介契約を取りやすい」という力が働きます。これは特定の会社が悪いという話ではなく、業界の構造の話です。

そして、媒介契約を結んだあとに起きることも押さえておいてください。専任媒介・専属専任媒介の契約有効期間は3か月以内と定められています(標準媒介契約約款による)。高い価格で売り出して反響が薄いまま1〜2か月が過ぎると、「そろそろ価格を見直しませんか」という話が出てきます。売主としては、すでに時間を使っているので断りにくい。

この流れ自体は、必ずしも悪意ではありません。 相場は動きますし、市場の反応を見て価格を調整するのは合理的な行為でもあります。問題は、最初から「取るための金額」だった場合に、売主が3か月を失うことです。

囲い込みについて

もうひとつ、売主が不利になりうる商慣行に「囲い込み」があります。売却を任された会社が、他社からの問い合わせに「商談中です」などと答えて紹介を断り、自社で買主も見つけて売主・買主の双方から手数料を得ようとする行為です。買主候補が減るので、売主にとっては不利になりえます。

ここについては、2025年(令和7年)1月から制度が変わりました。国土交通省不動産・建設経済局不動産業課が令和6年12月24日付で不動産業関連団体に出した事務連絡には、こう書かれています。

宅地建物取引業者が指定流通機構に登録した物件について、取引状況の登録内容が事実と異なる場合は、宅地建物取引業法第65条第1項の指示処分の対象となること

同じ事務連絡では、宅建業法施行規則の改正(令和6年6月28日公布)により、専任媒介契約でレインズ(指定流通機構)に登録すべき事項として「宅地建物の取引の申込みの受付に関する状況」が新たに明記されたこと、そして令和7年1月から、売主が確認画面にアクセスしやすくなるよう登録証明書に二次元コードを掲載するシステム運用が始まることが記されています。

売主にとっての実務上の意味は明快です。専任媒介・専属専任媒介を結ぶと、レインズ登録の証明書が交付されます。そこに載っている二次元コードから、自分の物件が今どう登録されているかを自分で確認できる。 会社から「二次元コードの使い方を説明します」という案内がなければ、こちらから聞いてください。事務連絡には、業者が「ステータス管理機能を分かりやすく説明すること」も明記されています。

媒介契約の3種類の違いも、あわせて確認しておきましょう。

種類 レインズ登録義務 業務報告の頻度 他社にも同時に頼めるか
専属専任媒介 契約締結の翌日から5日以内 1週間に1回以上(文書または電子メール) 不可。自分で見つけた相手とも直接契約できない
専任媒介 契約締結の翌日から7日以内 2週間に1回以上(文書または電子メール) 不可。自分で見つけた相手とは直接契約できる
一般媒介 任意(依頼者の同意のうえ登録) 法令上の義務なし 可

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(2026-08-31時点。契約有効期間は専任・専属専任とも3か月以内)


高い査定額の中身を確かめる手順 📋

ここからは実際の手順です。1ステップ1動作で書きます。

ステップ1:査定を頼む前に、自分で相場を見る

不動産流通推進センターの消費者向け資料にも「査定依頼をする前に自身で周辺の物件価格を調べ、相場感をつかんでおくことが大切です」と書かれています。順番が逆になると、提示された金額が高いのか安いのか判断できません。

国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、不動産の取引価格、地価公示等の価格情報が公開されています。掲載されている価格情報は2種類あり、不動産取引価格情報は国土交通省が取引当事者へのアンケート調査を行い、物件が特定できないよう加工して公表しているもの。もう一方の成約価格情報は、指定流通機構(レインズ)が保有する情報をもとにしたものです。

ここで失敗しやすいポイント。 ポータルサイトに出ている「売出価格」を相場だと思い込むことです。売出価格は売主の希望額であって、成約価格ではありません。この差については後の章で数字を出します。

ステップ2:机上査定(簡易査定)を複数社に出す

査定には「簡易査定(机上査定)」と「詳細査定(訪問査定)」があります。推進センターの資料では、簡易査定は「周辺の取引事例や地価公示等の公的な価格データから算出した簡便な査定。売却検討の初期段階で、おおむねの相場や不動産会社の対応等を把握するために利用される」と説明されています。

まだ売ると決めていない段階なら、ここで止めておくのも一つです。

ステップ3:査定額と一緒に「根拠の書面」を求める

宅地建物取引業法 第34条の2第2項は、こう定めています。

宅地建物取引業者は、前項第二号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。

そして「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」には、その根拠について次のように書かれています。

意見の根拠としては、価格査定マニュアル(公益財団法人不動産流通推進センターが作成した価格査定マニュアル又はこれに準じた価格査定マニュアル)や、同種の取引事例等他に合理的な説明がつくものであることとする。

さらに、留意点として3つ挙げられています。

  • 根拠は宅建業者の意見を説明するものなので、必ずしも依頼者の納得を得ることは要さないが、合理的なものでなければならないこと
  • 根拠の明示は口頭でも書面でもよいが、書面を用いるときは鑑定評価書でないことを明記するとともに、みだりに他の目的に利用することのないよう依頼者に要請すること
  • 根拠の明示は法律上の義務であるので、そのために行った価額の査定等に要した費用は、依頼者に請求できないこと

読み解くと、こうなります。根拠の説明は法律上の義務。費用は請求できない。ただし口頭でもよい、とされている。

だから、書面でくださいと言えるかどうかが分岐点になります。 「法律で根拠の明示が義務づけられていると聞いたので、書面でいただけますか」。この一言です。価格査定マニュアルのWEBシステムでは「売却価格提案書」をエクセル形式で出力できる機能があるので、マニュアルを使っている会社なら出せるはずのものです。

ステップ4:書面の中身を4点だけ確認する

もらった書面で見るのは、次の4か所です。

  1. どの成約事例を使ったか(所在・成約時期・面積・単価)。半年以内か、同じ圏内か
  2. 評点の内訳。どの項目でプラスをつけているか
  3. 流通性比率をいくつにしたか、そしてその理由
  4. 想定している売却期間。査定価格は「3か月程度で買い手が付くことを目安」に算出されるのが標準です

ここで失敗しやすいポイント。 「3社の査定書を並べて、いちばん高い会社を選ぶ」。これをやると、いちばん流通性比率を上乗せした会社が選ばれることになります。比べるべきは金額ではなく、金額の作り方です。

ステップ5:同じ質問を全社に投げて、答え方を比べる

おすすめの質問はひとつ。

「この価格で売れなかった場合、いつ、どういう判断をしますか」

査定額の根拠がしっかりしている担当者は、この質問に具体的に答えます。「1か月で問い合わせが○件、内見が○件なければ価格を見直しましょう」というように。逆に「うちなら大丈夫です」で押してくる場合は、次の質問へ進めません。


うまくいかないときの分岐 📊

症状ごとに、考えられる原因と対処を並べます。

症状 考えられる原因 対処
1社だけ突出して高い 流通性比率の上乗せ、または事例の選び方の違い 使った事例の所在・時期・単価を書面で確認する。他社と同じ事例を使っているか比べる
1社だけ突出して安い 事例の選択が保守的、または戸建で建物ランクを低く判定 建物の書類(性能評価書・検査済証・リフォーム履歴)を提示して再査定を依頼する
各社バラバラで基準がわからない 戸建・土地でよく起きる。土地の評点は幅が大きい 土地の評点(交通の便・日照採光・道路幅員)の内訳を各社に出してもらう
根拠を聞いたら口ごもられた 価格査定マニュアルを使っていない可能性 「何を根拠に算出したか」を改めて聞く。宅建業法上、根拠の明示は義務
訪問査定で金額が下がった 現地で劣化事象や維持管理状況が確認された どの部位でどう下がったかを聞く。改善できる箇所なら見積もりと比較する
売り出したが3か月反響がない 売出価格が市場の反応と合っていない 内見件数・問い合わせ件数を数字で報告してもらう。媒介契約は3か月以内なので更新時が判断のタイミング
他社から「見学を断られた」と聞いた 囲い込みの可能性 レインズ登録証明書の二次元コードから登録状況(取引状況のステータス)を自分で確認する

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一次情報:成約価格と売出価格は、これだけ違う 🗾

最後に、うちいくら編集部で公的統計を整理したデータを出します。集計方法を書きます。国土交通大臣指定の公益財団法人 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表している「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年7月度」(2026年8月10日公表)から、首都圏(1都3県)の成約側の数値と在庫側(売出中)の数値を、そのまま並べたものです。加工や独自推計はしていません。

首都圏の中古マンション(2026年7月度)

項目 成約(実際に売れた物件) 在庫(売出中の物件)
件数 3,638件(前年同月比 −8.6%) 47,151件(前年同月比 +5.5%)
価格 5,267万円(前年同月比 −0.7%) 6,866万円(前年同月比 +29.0%)
㎡単価 84.17万円/㎡(前年同月比 −1.5%) 118.30万円/㎡(前年同月比 +28.2%)
面積 62.57㎡ 58.04㎡
築年数 27.70年 29.24年

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首都圏の中古戸建住宅(2026年7月度)

項目 成約 在庫
件数 1,738件(前年同月比 −1.9%) 23,197件(前年同月比 −1.2%)
価格 3,933万円(前年同月比 +0.6%) 4,711万円(前年同月比 +6.9%)
土地面積 143.96㎡ 188.09㎡
建物面積 102.74㎡ 108.13㎡
築年数 25.11年 26.91年

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マンションで、成約5,267万円に対して在庫6,866万円。 在庫のほうが面積は小さく(58.04㎡ vs 62.57㎡)、築年数は古い(29.24年 vs 27.70年)にもかかわらず、価格は約1,600万円高い。

これが「売り出したけれど売れていない物件」の姿です。ポータルサイトを見て「うちの近所は6,000万円台なんだ」と思うとき、あなたが見ているのは、この在庫側の数字である可能性が高い。

査定額がそのまま売れる金額になるわけではない、というのは、この表の左右の差のことです。

同レポートによれば、マンションの成約件数は4か月連続の減少、在庫件数は5か月連続の増加で、増加率は拡大傾向。成約価格は3か月連続の下落となっています。一方で戸建の成約価格は7か月連続の上昇。マンションと戸建で、まったく違う動きをしています。

判断材料として、成約と在庫の乖離が広がっていること、成約件数が減っていることは押さえておく価値があります。


一括査定の営業連絡について 📋

複数社の査定額を比べたい。そう思ったときにいちばん手っ取り早いのが一括査定サイトですが、使う前に知っておきたい負担もあります。

申し込むと、複数の不動産会社から連絡が来ます。 これは仕様であって、事故ではありません。1社に問い合わせているのではなく、複数社に一斉に情報が渡る仕組みだからです。何社に渡るかはサービスによりますが、数社から10社近くになる場合があります。

そして、多くの会社にとって、これは「営業のきっかけ」です。査定額を伝えることが目的ではなく、訪問査定のアポイントを取ること、媒介契約につなげることが目的になります。だから電話は熱心になります。

「営業電話が怖いから査定を頼めない」という警戒は、否定しません。実際に来るものは来ます。

そのうえで、負担を減らす方法をいくつか。

  • 連絡方法をメールに指定する。 申込フォームの備考欄・要望欄に「連絡はメールでお願いします」と書く。それでも電話が来る場合はありますが、書いておくと減ることは多いです
  • 連絡可能な時間帯を書いておく。 「平日19時以降のみ」など
  • 一括査定を使わず、自分で2〜3社に個別に問い合わせる。 手間は増えますが、渡る先をコントロールできます
  • まずは公的データで相場を確認してから動く。 不動産情報ライブラリで取引価格情報を見るだけなら、誰にも連絡先を渡さずに済みます
  • 「まだ売ると決めていない」と最初に言う。 これを伝えたときの反応で、その会社の姿勢はだいたい見えます

一括査定サイトの多くは、不動産会社からの掲載料や送客手数料で運営されています。無料で使えるのはそのためです。仕組みを知ったうえで使えば、便利な道具ではあります。


よくある質問

Q. 査定は無料ですよね? あとから請求されませんか。

価格査定は仲介業務の一環として通常無料で行われるものです。「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」には「根拠の明示は、法律上の義務であるので、そのために行った価額の査定等に要した費用は、依頼者に請求できないものであること」と明記されています。ただし、不動産鑑定士による不動産鑑定評価は別のサービスで、こちらは有料です。両者は別物である点に注意してください。

Q. 机上査定と訪問査定、どちらを頼むべきですか。

売却を決めていない段階なら机上査定で十分です。ただし、価格査定マニュアルの手引きには、基本情報だけを入力した簡易査定について「これは最低額に近い査定価格です」と書かれています。建物のグレードや維持管理状況が反映されていないためです。戸建の場合、机上査定の額は低めに出やすいと理解しておくとよいでしょう。売り出す価格を決める段階では、訪問査定が前提になります。

Q. 高い査定を出した会社に頼めば、その額で売れますか。

査定額は「この価格なら3か月程度で買い手が付きそう」という見立てであって、成約を約束するものではありません。上の統計が示すとおり、首都圏の中古マンションでは売出中の在庫価格が成約価格を大きく上回っています。査定額と成約価格は別のものです。

Q. 3社に頼んだら3社とも違う額でした。平均を取れば正しいですか。

平均が正しいという根拠はありません。金額を平均するのではなく、3社の根拠を見比べて、どの前提が自分の物件に合っているかを判断するほうが実になります。たとえば「A社は駅から徒歩12分の事例を使っている、B社は徒歩7分の事例を使っている。うちは徒歩10分」というように、事例レベルで比べられれば判断できます。

Q. 売却で税金がかかると聞きました。査定額から計算できますか。

譲渡所得の計算や特例の適用は、取得費・所有期間・居住状況など個別の事情で結論が変わります。ここでは制度の一般的な説明にとどめます。具体的な判断は税理士に、相続登記や名義に関することは司法書士に確認してください。 査定の段階で「税金は大丈夫ですよ」と断定する営業トークが出てきたら、その担当者の言うことは一度持ち帰って確認したほうが安全です。


まとめ:金額ではなく、金額の作り方を比べる

要点をまとめます。

  • 査定額の差は、事例の選び方・評点・流通性比率という3つの裁量ポイントの掛け算で生まれます。どれもマニュアルの範囲内で動く
  • 戸建は、基礎・躯体のグレード判定(耐用年数30年〜100年)で建物価格が数倍変わります。決め手は書類の有無
  • そのうえに、媒介契約を取るために高く出すという営業上の理由が別レイヤーで存在する
  • 見分ける方法は、宅建業法34条の2第2項が定める根拠の明示を書面で求めること。費用は請求されません
  • 2025年1月から、レインズの登録証明書の二次元コードで、自分の物件の取引状況を自分で確認できるようになりました

査定額を並べて悩む時間を、根拠を読む時間に振り替えてみてください。数字が1つ増えるより、数字の作られ方が1つわかるほうが、結果的に判断は速くなります。


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選び方の基準

本記事で紹介した査定手法・計算式・商慣行の説明は、次の基準で情報を選んでいます。

  • 公的資料を最優先:査定手法の定義は国土交通省の公表資料と、不動産流通推進センターの価格査定マニュアルに依拠しています
  • 実際の成約データで裏づけ:相場に関する記述は、当サイトが集計している国土交通省の不動産取引価格情報(全国約54万件)にもとづきます
  • 特定の会社を優遇しない:個別の不動産会社の優劣は扱わず、仕組みの説明に徹しています

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